第3セクターの仕事

1999年から取り組んだ愛媛・新宮村の村おこし。
この事業は当時の新宮村(現・四国中央市)が主体となって起債し、観光施設・キャンプ場・特産品加工施設などを整備して始まったものです。
定住人口の獲得に失敗した村が、次なる手段として交流人口の獲得に乗り出したのです。

村がハードを整備し、村が9割超を出資する第3セクターがソフトを担う、という役割分担で準備が進められました。
さて、この「第3セクター」とはそもそも何でしょう。

第3セクターとは

第3セクターとは一般に官民協業の企業体のことをいいます。
国および地方公共団体が経営する公企業を「第1セクター」、民間事業者が経営する私企業を「第2セクター」、「第1セクター」と「第2セクター」の共同出資で設立された法人を「第3セクター」というのです。

第3セクターは当初、官(=資金調達力)と民(=機動力)のいいとこ取りともてはやされました。
90年代には赤字鉄道路線の運営から図書館や体育館の運営、ゴミの収集まで、各地でまるで雨後の筍のように第3セクターが乱造されました(図1)。

第3セクター等の年次別設立数グラフ
図1  第3セクター等の年次別設立数(総務省「第三セクター等の状況等に関する調査結果」より抜粋)

ところが2000年代に入るとすっかり第3セクターの設立は下火となりました。
大半の第3セクターはいいとこ取りにはなるどころか逆に悪いとこ取りでした。
官と民が互いになれ合い、消費者の要望に聞く耳持たず、ただ血税をむさぼるだけの存在だったのです。

お金は出すが口は出さないという姿勢

しかし、私が在籍した愛媛・新宮村の第3セクターは、そうした全国の失敗した第3セクターとは一線を画し、次々と結果を出していきました。
開業時5万人ほどだった年間入込客は翌年には2万人に落ち込み、そこから数年間は膨れ上がる累積赤字に苦しみましたが、その後V字回復し、最終的には25万人を超すまでになったのです。

この成功の理由は、とにもかくにも大ヒット商品「霧の森大福」を生み出したことにあるのですが、それは表面的な話に過ぎません。
むしろ、ヒット商品を作って売るという、他の第3セクターではできなかったことが、なぜそこではできたのかこそが重要です。

これは一にも二にも、行政がお金は出すが口は出さないという姿勢に徹してくれたことが最大の要因とみています。
これはなかなかできるものではありません。
会社の出資というものは、そもそも「口を出したいがためにお金を出す」というのが基本ですから。
逆に、大方の第3セクターが失敗するのは、営業のことにまったく疎い行政が運営に口を出すからと言えます。

新宮村でも当初はいろいろと行政が口を挟みました。
やれ製造した菓子の売価が高いだの、やれレストランのメニューが高いだの、やれコテージは何度か利用したら無料にせよだの。
その都度私は、サービスの価格はそもそもあってないようなものなのに、少し客の入りが悪いからといって、価格を決定した側が安易に値下げすることは、それまでのサービスに疑義を生じかねず、また今後の運営にも支持を得られなくなると力説するなどして、少しずつ行政の口出しを排除していきました。

官と民が得意分野で力を発揮する

もちろん村有(のち市有)施設ですから固定資産税はかからないうえ、起債や補助金の調達にも長けるなど行政サイドには得意とする分野があり、その範囲内で力を発揮してくれるのは心底ありがたかったし、そんな行政とともに事業を進められるのはまさに第3セクターならではです。

しかし、だからといってそれ以上の営業サイドの諸事に口を出していいとはなりません。
なぜなら行政は観光施設やキャンプ場の運営には不得手で、そこを効率よく回すために民の力を巻き込んでいるのが第3セクターだからです。
自分たちでできないのなら口も出すな、というのが民間側の本音です。

行政こそサービス業の親玉みたいなものなのに、なぜサービスが不得手なのでしょうか。
それはひとえにお金の出どころが要因です。
民間は目の前の客が支払ったお金が自分たちの給与になり、また施設の拡大再生産につながります。
ところが行政は窓口に来た住民から何かをいただくわけではなく、税金が自分たちの給与となり、施設の運営費に充てられるのです。
住民に対し真剣に対応しようが適当に対応しようが、自分たちは何も変わらない――この意識が、行政がサービス業に疎い理由です。

一方で民間は、崇高な経営理念を大切にしながらも最終的には営利目的の団体です。
いくら村おこし、地域活性化というお題目が美しいものであっても、そこに商機がなければ動けないのです。
でもひとたび商機ありと見るや圧倒的な機動力で動き、客の満足度を高めるべく奔走します。

ですから、行政が出資して第3セクターを立ち上げ、後の運営は民間的視野をもって行うという役割分担は、村おこしという崇高だが儲かるとは限らない題目を叶えるにはまさに理に適った手法だといえるのです。
官と民、それぞれが本分を発揮することが大切なのですね。

一時期に比べその数をぐっと減らした第3セクターですが、それでもまだ年間の設立数が28社もある(令和2年度・総務省「第三セクター等の状況等に関する調査結果」より)など、全国各地で奮闘を続けています。
どうもうまくいかないと嘆く第3セクターがあるとしたら、一度この官と民の役割や本分のバランスを点検してみるとよいかもしれません。
歪んだ仕組みが見つかるのではないでしょうか。

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