村おこし企業としての「本分」

前回、第3セクターについて考えてみました。
行政と民間が協同出資して設立された第3セクターがどうあるべきかについて、です。
結論は、官と民がそれぞれ得意分野に注力することが望ましい、ということでしたね。
これを言い換えれば、それぞれが「本分」を忘れないということになるでしょう。

さて、1999年から取り組んだ愛媛・新宮村の村おこしでは、5年ほど経過した頃から主力の「霧の森大福」がヒットの兆しを見せはじめました。
それまでも「霧の森」という施設の看板を背負っただけのことはあって、土産菓子としてほどほどに売れてはいました。
しかし2004年あたりからインターネットで急に売れるようになってきたのです。
それにはもちろんきっかけがあったのですが、今回は別の話をしたいので、きっかけの話はまた別の機会で。

霧の森大福は翌2005年に入ると爆発的なヒットを見せ、たちまち入手困難になっていきました。
こうなると、また別の「本分」を考える局面が出てきたのです。
それは自分たちが地域活性化のために設立された企業であるという本分です。
どういうことか、詳しく見ていきましょう。

霧の森大福の空前のヒットに、世間はいわゆる人気商品としてのふるまいを求めてきました。
というのも霧の森大福は添加物を最小限に抑えていたため日持ちが冷蔵で3日間と扱いづらく、これを伸ばしてほしいという声が増えてきたのです。
曰く、3日間なんて短すぎる、ましてや要冷蔵なんてお土産に使うことができない、と。
さらに全国の百貨店や量販店から、卸してほしい、それが無理なら店頭販売に来てほしいとの声が引きも切らず寄せられるようになりました。
霧の森大福はヒット商品として王道の快進撃を歩み始めたのです。

これはいわばひとつの大きなビジネスチャンスです。
山間の村おこしとして進めてきた事業が、大きく羽ばたく可能性を持つに至ったのです。
さてそこで私はいったいどのような対応を取ったでしょうか。

まず消費者から寄せられた、日持ち改善の要望は一切お断りをしました。
期限の3日間を1週間にし、冷蔵商品を常温商品にするためには、製造方法を一新し、添加物を注入するよりほかありません。
それは、地元の無農薬のお茶の香りを味わってほしいと願って作ったコンセプトと真っ向ぶつかるものでした。
常温で1週間持つ商品になれば、さらに売りやすく、ロスも減ることは容易に想像がつきます。
でもあえてそこは突っぱねたのです。

また卸してほしいという販売店からの要望もことごとくお断りをしました。
商品を卸すということは、商品の売り先が消費者ではなく店になるということ。
ホテルや旅館が自ら販路を開拓せず旅行代理店に販売を委ねた結果、その代理店が客になってしまうのと同じ構図です。
代理店が送客しやすいよう、食事の時間や内容、仕入れ先までも厳しくコントロールされ、それに従うしかなくなったホテルや旅館。
商品を卸すということは、最終的にはその商品を店に気に入られるものに変えていくことを意味するのです。

また霧の森大福は、期限が切れそうになっても値下げ販売せず処分する方法を採っていました。
食品ロスの観点からは褒められたものではありませんが、ブランド価値を維持するためにはやむを得ませんでした。
しかし、卸してしまうとその決定権は自分たちの手を離れ、販売店の専決事項になってしまいます。
消費期限本日中、50%オフのシールが貼られた霧の森大福など想像もできませんでした。
こうしたことから、卸すという選択肢は断じてあり得ないものだったのです。

そしてもう一つ、卸せないならせめて売りに来てほしいという要望はとにかく多すぎました。
催事での販売は基本的に1週間単位のことが多いため、オファーをすべて並べるとあちこちで日程がバッティングしていました。
そんなとき、他店では一般的にどうするかというと、マネキンと呼ばれる販売員を出張販売先で雇用し、販売を委ねてしまうのです。
そうすればどれだけ日程がかぶっていても問題はなく、商品を送り込むだけで全国各地で同時多発的に販売できるというわけです。
私たちも百貨店からそんな方法を提案されましたが、それも首を縦に振ることはしませんでした。
なぜなら自分たちの手で販売しない限り、霧の森大福は単においしい菓子として紹介されるに違いなかったからです。
村おこしの熱い想いが籠もったものであると直接消費者に伝えることができるのは自分たちだけです。
やむを得ず数多くのオファーを断って厳選するよりほかありませんでした。

このように、流通業界からの要望はほとんどお断りをしました。
霧の森大福は売れる、という手応えははっきりと感じていましたから、要望に応えて大量生産、大量販売に踏み切る道も十分あったわけです。
生産ラインを拡充し、添加物を注入すれば、百貨店はおろかスーパー、コンビニにすら卸せたことでしょう。
そうすれば莫大な利益を生んだかもしれません。
しかしどんなにおいしい人気商品でも1年ブームが続くかどうかという厳しい世界にあって、霧の森大福だけが売れ続けることなどあり得ません。
霧の森大福は村民の思いを背負った村おこしの菓子なのです。
そのストーリーを捨てて、単なる菓子屋に成り下がるつもりは毛頭ありませんでした。
この頑なな姿勢は、地元の議会でも問題視され、売れるときに売っておけ、あいつを辞めさせろなどの声が聞こえてきましたが、一切無視しました。

霧の森大福はわずか年商3億円分しか製造ができないにもかかわらず、2004年のヒットからコロナさえも乗り越えて2023年現在でもネットでは100倍近い抽選が続くというロングランヒットを記録しています。
それはひとえに、村おこしの本分を大切に考えたからと結論づけることはうぬぼれでしょうか。

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